衣のうたー袖・袂・襟(7/11)
いづくにていかなることを思ひつつ今宵の月に袖しぼるらむ
建礼門院右京大夫
*「あの人はどこでどんなことを思いながら、今宵の月を眺め、涙で濡れた袖をしぼっているのだろうか。」
松が根を磯辺の浪のうつたへにあらはれぬべき袖のうへかな
新勅撰集・藤原定家
*うつたへに: ある一つのことだけに向かうさまを表す語(副詞)。多く下に打ち消しや反語の語を伴って用いる。いちずに。むやみに。
「松の根を磯辺の浪がいちずに洗っているほどに袖の上に涙が流れているよ」
春待ちて霞の袖にかさねよと霜の衣の置きてこそゆけ
金槐集・源 実朝
*霜の衣: 霜が一面に白く降っているさまを衣にたとえていう語。
せき留むる袖のしがらみ涙のみまたかきくらすしののめの空
藤原俊成卿女
*後朝(男女が共寝した翌朝)の情景。
かへずとも人なのがめそ翁さび今年ばかりの花染の袖
新葉集・宗良親王
*翁さぶ: 老人らしくなる。
春をいそぐ色は見えけり玉鉾の道もさりあへぬ袖のゆききに
烏丸光広
*「玉鉾の」は道にかかる枕詞。「さりあへぬ」は、(あまり多くて)避けることができない。
すまのあまの袖にやどしてもしほくむ浪かけ衣(ごろも)月ぞしほるる
飛鳥井雅章
*すま: 須磨。神戸市西部の地名。大阪湾に臨む白砂青松の海岸で、古来明石と並び称された景勝地。