天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー袖・袂・襟(11/11)

 襟は、衿,領とも書くが、首のまわりを取巻く衣服の部分の名称である。また「胸の中、心の中」という意味を持つ場合がある。熟語にも「襟を正す」「胸襟を開く」などと象徴的な意味を表す用法もある。

  染むれども散らぬ袂にしぐれ来てなほ色深き神無月かな
                    拾玉集・慈円
  嬉しさをつつみかねたる袂より悲しき露のなどこぼるらむ
                      香川景樹
  われしらじせこの袂の綻びはひきけむ人ぞ縫ふべかりける
                     太田垣蓮月
*せこ: 女性が男性を親しんでいう語。夫や恋人をさす。
太田垣蓮月: 幕末・明治の女流歌人。手捏ねの茶器に自詠の歌を彫りつけた蓮月焼と称される陶器も作った。

  人まへを袂すべりしきぬでまり知らずと云ひてかかへてにげぬ
                     与謝野晶子
*きぬでまり: 絹手毬。下句から少女の振舞が想像される。

  汚れたる着物の襟もぬぐはねば今日きさらぎの雪降りにけり
                     前川佐美雄
*上句と下句を因果関係でつないでいるところが面白い。

  垢すこし付きて痿(な)へたる絹物の袷の襟こそなまめかしけれ
                     岡本かの子

f:id:amanokakeru:20200629071754j:plain

着物の襟