衣のうたー帽子・手袋・足袋(2/6)
死してもわれの知己とおもふに炎天の墓石に帽子かける釘無し
塚本邦雄
*炎天下を知合いの墓参りに出かけたのだろう。墓にお参りする際には帽子をとるのだが、その帽子をかけるための釘が墓石についていない(当たり前)、と不平をのべた形。これは知り合いの死を惜しんでいることの表現方法なのだ。
しめりたる帽子いだきてぬけいづる巷なり昏き虹かかりゐし
塚本邦雄
夕ぐれといふはあたかもおびただしき帽子空中を漂ふごとし
玉城 徹
*夕ぐれを下句のように直喩するのは独特であろう。共感するのは困難か。
一枚の羽根を帽子に挿せるのみ田舎教師は飛ばない男
寺山修司
*作者は、田舎教師に不満を抱いていたようだ。
夏帽のへこみやすきを膝にのせてわが放浪はバスになじみき
寺山修司
帽子とるその一瞬の垂髪のほどけてちりて塩のごとしも
三枝昂之
*まだらの白髪なのだ。
汗のしみにじみ残りて麦藁の帽子に今朝の秋たちにけり
杉浦翠子