天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー帽子・手袋・足袋(3/6)

  戦争に失ひしもののひとつにてリボンの長き麦藁帽子
                    松田さえこ
  黒き学帽の子は前方(まへ)をゆきいっさんに雪のふる晩こころただよふ
                     森岡貞香
*いっさんに: 一散に。わき目もふらず一生懸命に走ること。急速に事態が進行すること。

  角帽をかぶれるわれの写真いづあなやと言はむばかりをさなく
                    上田三四二
*角帽: 頂上が四角であるところからこの名がつけられ,明治時代には角帽は帝国大学生の異名でもあった。
あなや: 驚いたときに発する語。ああ。

  夏帽子すこしななめにかぶりゐてうつ向くときに眉は長かり
                     河野裕子
  忘れきし青き帽子の真中にて緑鳩(あをばと)の胃のひさかき芽ぐむ
                    百々登美子
*緑鳩: ハト目ハト科の鳥で、羽色は上面はやや暗い緑色で,顔から胸は明るい緑黄色,腹は白っぽい。ただ下句の情景と一首の意味がなんとも不可解。「ひさかき」は、ツバキ科の常緑低木。

  帽を顔に載せれば帽の内側の匂ひて苦しおのれと言ふは
                     森山晴美
  風景は人間(ひと)のはるかなる原点 かぶらんとすれば帽子の裡側におう
                     糸川雅子
*帽子の匂いを感じて上句のことを思ったのだろう。

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麦藁帽子