衣のうたー帽子・手袋・足袋(5/6)
流亡の相(さう)と言はれし中指の渦紋も夏の手袋に秘む
大西民子
*占い師に手相を見てもらったときに、中指の渦紋から「流亡の相(さう)」あり、との占いが出たのだろう。流亡とは、居所を定めずさすらうこと(流浪)を意味するが、作者の人生の実感であったろう。
秘密めき妻いふあはれ内職の手袋に血のしみつけしこと
田谷 鋭
あたらしきものはするどし例ふれば皮手袋の油のにほひ
田谷 鋭
空垂るる野を人は来る大きなる手袋の手の黒くひかりて
真鍋美恵子
君がその眼鏡の奥のさみしさに触れ得ずはきぬ黒き手袋
大塚陽子
*「はきぬ黒き手袋」とは、黒き手袋に手をはめた、ということ。
手套(てぶくろ)にさしいれてをり Debussy の半音にふれて生(なま)のままのゆび
河野美砂子
*Debussyは、フランスの作曲家。長音階・短音階以外の旋法と、機能和声にとらわれることのない自由な和声法などを用いて独自の作曲を行った。
冬ごもる病の床のガラス戸の曇りぬぐへば足袋干せる見ゆ
正岡子規
俣海松(またみる)のまたはも見んとおもはねど少女のは草に白しも
尾山篤二郎
*俣海松 : 茎が多くのまたになっているところから)海藻「みる(海松)」の異名。この歌では、二句にかかる掛詞として用いている。特に訳す要はないだろう。