衣のうたー履物(1/4)
以下では、辞書で調べたことがらを引用することが多いが、煩雑になるので典拠は省略する。
下駄は、木製の台に鼻緒をすげた履物の総称。登呂遺跡の田下駄をはじめ古くから多くの遺品によって知られる。ぞうり(草履)は、鼻緒を有する日本の伝統的な履物で、明治以前は草草履であった。現代では、大量生産されたビニール素材の軽装草履や軽装履が普及している。
わらじ(草鞋)は、わらで編んだ草履状の履物。足形に編み、つま先の2本の緒を左右の乳(ち)に通して足に結びつけて履く。
靴は、足を包む形の履物の一種。世界的にみて靴は紀元前一万年くらいからあったらしい。
信濃路は今の墾道(はりみち)刈(かり)株(ばね)に足踏ましむな沓(くつ)はけわが背
万葉集・作者未詳
*わが背(せ): 女性が自分の夫・恋人・兄弟などを親しんでよぶ言葉。
「信濃路は近頃切り開かれたばかりの道。そこかしこに残る鋭い切り株をお踏みになっては足にお怪我をします。靴をお履きなさい、あなた。」
ぬぐ沓のかさなる上に重なるはゐもりのしるしかひはあらじな
夫木抄・よみ人しらず
*ゐもり: 両生綱有尾目イモリ科に属する動物。背は黒褐色で腹は全体に赤黒く黒斑があり、赤腹ともいう。池沼や小川、井戸などにも棲むので井守とも書く。
夫木抄(夫木和歌抄)は、藤原長清撰による鎌倉後期の私撰和歌集。
独特な内容だが、沓の上にイモリのようなものを見て、瘡(かさ)蓋(ぶた)じゃないだろう、と思ったか。
ふるゆきにきそひがりする狩人の熊のむかばきましろになりぬ
*むかばき: 武士が旅や猟をする際に、袴の上から着装する服飾品の一種。
よもすがら松のほた火を焼あかしわらぐつ打たん冬はきにけり
熊谷直好
*ほた火: 焚 (た) き火。
雪掃きに穿く藁靴をあたためて雪を掃かむと思ひたちをり
結城哀草果
すてられし下駄にも雪がつもりおるここにも統一があるではないか
山崎方代
*下句に込められた作者の感情はわかる気がする。解説はヤボになりそう。
下駄はけば動きたくなり吹く風の冷たきに向かひ歩みを移す
窪田空穂