天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたー履物(3/4)

  足半(あしなか)の草履(ぞうり)の脚に来る媼まこと貧しきは物を盗まず

                     岡部文夫

*脚にすり寄ってきた物乞いの老女を詠んだ。時代が思われる。

 

  妻と子と吾に従う雪の径ゴム長靴は借りて穿きつつ

                     細川謙三

*ゴム長靴を借りて穿いたのは、作者だけだったのか? 

 

  戦後長く履きたる軍靴泥ねいを歩きしままにしまはれてあり

                     石川一成

  濁水(にごりみづ)の池を八十(やそ)たび悔いめぐり歎きみしかど履物もなく

                    伊藤左千夫

*結句からすると裸足で濁水の池を八十回めぐったのだろう。何を悔い嘆いたかは不明。

 

  窓の外を靴音やがて錠の音この夜半つひに人声は無く

                     植松壽樹

  皮靴を欲しといふ子にああ五月空いろのズックの靴買ひやりぬ

                     小島 清

  今朝もまた靴はくことに苦しみて汗かきながら息づきにけり

                     五味保儀

  雨水を吸いたる布の靴やさし歩毎歩毎に水の鳴るなり

                     阿木津英

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草履