天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー米、飯、ごはん(3/6)

  虎杖(いたどり)のわかきをひと夜塩に漬けあくる朝食ふ熱き飯にそへ

                         若山牧水

*虎杖: 山野に自生するタデ科多年草。高さ約1.5メートル。若い茎は酸っぱいが、食べられる。

 

  出でゆくと飯いそぎ食ふ弟を見れば立ち入りてもの言はざりき

                         五味保儀

  み枕べ去らむとするを押しとどめ飯食ふさまを見よといはしぬ

                         岩津資雄

*結句の「いはしぬ」の意味が不確か。「病人の枕もとを去ろうとすると隣の人が押しとどめて、病人がご飯を食べるのを見なさい、とおっしゃった。」と解釈したい。

 

  飯の数減りゆくときは負けまじき気負ひごころも病み衰へぬ

                        小名木綱夫

*病んで飯の数が減ると、負けん気も衰えてしまった。

 

  自らの食はむ飯焚くゆふまぐれ釜に灯のつくひとつ安らぎ

                         千代国一

  顔も手も飯粒(めしつぶ)まみれに食ふさまやこの子は頸(つよ)く生ひたたしめむ

                         筏井嘉一

  注意して入れても口をこぼれ出る産地不詳のこの飯粒め

                         竹山 広

*肺結核で入院していた戦時中の病院での食事の心象風景だろうか。

 

  麦飯の遠き力やわがおもひしづかに暮れて世界と違(たが)ふ

                         岡井 隆

*麦飯の歴史は古く、平安朝のころからあったらしい。かつて麦飯は米の節約の目的で食べられたが、現在は健康上食用されることが多い。腸内乳酸菌の増殖や便秘防止、またビタミンB1補給に役立つ。

 

  「冷や汗」という名物の料理あり何のことはない麦飯に汁かけて食う

                         浜田康敬

 

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虎杖 (webから)