食のうたー魚介(4/7)
河豚くうていのち死なまし海棠(かいだう)に春うつくしく雨のふる日や
*作者は、《アララギ》の万葉調,写生主義に対抗して,蕉風俳諧の精神を歌に移し,象徴主義を作歌の根本とすることを唱えた。
覇県警備に静かなる夜は送り来し烏賊を焼きつつ兵と和(なご)みぬ
*渡辺直己は、昭和12年、日中戦争のため召集され、中国に第五師団歩兵第十一連隊陸軍少尉として送られた。天津市や武漢市で警備にあたったが、昭和14年、天津市で戦死した。
ならべほせる烏賊の生(なま)干(ぼし)のするどき香ただよふ中の裸の子等よ
石榑千亦
いのちあるものの姿を弄(もてあそ)ぶ烏賊徳利(とつくり)や烏賊飯(めし)の身や
石本隆一
*烏賊徳利は、イカを徳利状に加工した、「食べられる容器」。 燗酒を入れて十数分おくと、イカの風味・旨味が燗酒に溶け出して味わい深いものになる。徳利として数回使用した後は、炙って酒肴になる。烏賊飯は、イカの足と腹わたをとりのぞき、胴にもち米をつめて、砂糖と醤油などで甘辛く煮た料理。
誕生日われの生れし刻来り濃き酢のなかの昏睡の牡蠣
*牡蠣はマガキやイワガキなどの大型種が食用になる。日本では縄文時代ごろから食用されていたとされる。
乳白にかたまり合へる牡蠣の身に柑橘のするどき酸を搾りぬ
葛原妙子
*生ガキを食べる際には、レモン汁、食酢、タバスコ等を使った酸味のある調味ダレを添えることが多い。
夕餉にておもひまうけぬ悲しみのきざしつつ牡蠣のむきみを食へり
佐藤佐太郎