食のうたー鮨(1/3)
「すし」は、酢で味付けした飯に、魚介類などの具をのせたり、混ぜ合わせたりした食品で、語源は、「酸し(すし)」からきている。発祥は東南アジアの山間部とされる。
「すし」の漢字には、「鮨」「鮓」「寿司」がある。このうち「寿司」は江戸末期に作られた当て字で、縁起担ぎや賀寿の祝いの意味がこめられている。
日本の鮨は、すでに奈良時代から知られていた。ただ、和歌に詠まれた例は寡聞にして見たこともない。対して、俳諧・俳句では夏の季語になっている。なかでも与謝蕪村の場合、現代俳人を含めても鮨の句は最多ではなかろうか。ちなみに松尾芭蕉には、鮓の句は見当たらない。
このシリーズでは、蕪村の作品だけにしぼる。出典は、藤田真一、清登典子 編『蕪村全句集』(おうふう)による。
鮓つけて誰待(たれまつ)としもなき身哉
なれ過(すぎ)た鮓をあるじの遺恨(いこん)哉
*来客に自慢の鮓を出そうとしたのだが、熟れすぎていた。残念がる主人。
一夜鮓馴(なれ)て主(あるじ)の遺恨かな
*前の句を一夜鮓に変えた別案。
鮓桶をこれへと樹下に床几(しやうぎ)哉
*樹下に床几を置いて、封を切って鮓桶をここへもって来てくれ、と指示している。
木(き)のもとに鮓の口切(きる)あるじかな
*前の句の続き。
鮓つけてやがて去(い)ニたる魚屋(うをや)かな
*依頼された鮓を手際よく漬けて、すぐに立ち去る魚屋を詠んだ。