天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー肉(1/2)

 日本では古来、狩猟で得た獣(シカ、イノシシ、ウサギ、野鳥など)の肉は食べていた。食用に家畜を育てる習慣はなかった。仏教伝来以降は、獣肉全般が敬遠されるようになっていった。明治時代になって、牛肉を食べることが文明開化の象徴と考えられ、牛肉を使ったすき焼きが流行した。

 

  銀の皿に脂(あぶら)爆ぜながら運ばれしこの雛鶏を終へば別れむ

                     植松寿樹

*結句の「別れむ」とは、もちろん身内か知人を指す。

 

  飯食はぬ少年のため雛鶏をあぶりしもとめ砂の街来つ

                     大野誠

  鶏を割(さ)く父の記憶滴りて逸楽はあり赤き臓腑と

                     浜田 到

*なんとも不気味な内容。逸楽とは作者にとってだろう。

 

  肝(きも)を召せ鶏(とり)の肝召して養へと更年期のをんな友達ら来る

                    前川佐美雄

*上句は、更年期のをんな友達らが作者に薦めたことだろうが、彼女たち自身の願いでもあったろう。

 

  うす桃色の鶏の生身を積みし箱手鉤に引かれ店深く入る

                     室田陽子

  羊肉をさかんなる火にあぶり食ふ誰も原人の骨格もてり

                    真鍋美恵子

*上句の情景から下句の考えが浮かんだのだろう。

 

  肉塊を置くガラス器の中灯り花売る店のごとく華やぐ

                    冨小路禎子

  マトン肉焼きちぢまれば皿に取る體温(あたた)むるは山行のため

                     竹内邦雄

*山行(さんこう): 山歩き、登山。

 

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焼き鳥