天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー調味料(2/2)

 酢は、有史以前、人間が醸造を行うようになると同時期に作られたという。現代でも穀物や果実を原料にした醸造酒を酢酸菌で酢酸発酵して得る。

 

  快く砂糖の角の溶けてゆく紅茶を見つつものはおもはず

                      尾上柴舟

  冬ごもる蜂のごとくにある時は一塊の糖にすがらんとする

                     佐藤佐太郎

  黒砂糖とろりと溶けて夫も子もおらぬ一夜のフランス映画

                      今井千草

*黒砂糖: サトウキビの茎の絞り汁を加熱し、水分を蒸発させて濃縮したものを冷やし固めて作る。沖縄県奄美地方の特産品。

 

  ある朝のかなしき夢のさめぎはに鼻に入り来し味噌を煮る香よ

                      石川啄木

  葉山葵(はわさび)も藜(あかざ)の茎も酢に漬(ひ)でて貧しさたらふ春は来にけり

                      穂積 忠

*藜は黄緑色の小花を密につけ、風媒花であるため花粉が飛散しやすく、アレルギーの原因になる。雑草として扱われる。一般的ではないが、藜の葉も茹でて食べることができる。

 

  うつし身を出でたる影は冬の夜の皿の海鼠に酢をたらしたり

                     岡部桂一郎

  花のごとく紫だちてただよへるなまこに注ぐ柚の香の酢

                      岡野弘彦

  ゴッホの耳、否一まいの豚肉は酢に溺れつつあり誕生日

                      塚本邦雄

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黒砂糖