食のうたー果物(1/7)
梨には、和なし(日本なし)、中国なし、洋なし(西洋なし)の3種がある。日本語で単に「梨」と言うと通常は和なしを指す。もとは中国が原産。
汁たるる梨食ひ終へぬひたすらに寂しきものか妻と在ることの
小暮正次
男なる鬱を抱きて帰り来つ梨むく妻へ梨食ふ子らへ
高野公彦
梨をむくペティ・ナイフしろし沈黙のちがひたのしく夫とわれゐる
*ペティ・ナイフ(フランス語)は、野菜や果物の皮むき用の小形の洋包丁。
砂丘ゆくらくだのこぶの中の水甘きや梨の実剥けば秋の夜
草田照子
*梨を剥いていて、らくだのこぶの中の水が甘いか、という想像は突飛で面白い。
東京に見合いに来たる妹と吾が剥きやりし梨を食いたり
黒岩剛仁
世の人はさかしらをすと酒のみぬあれは柿くひて猿にかも似る
*「あれ」は、「吾、われ」に同じ。
柿の実のあまきもありぬ柿の実のしふきもありぬしぶきぞうまき
*「しぶきぞうまき」というが、干し柿にした場合であろう。
柿くへば秋ふかきかな病みあとのことしの柿はいのちにひびく
*作者は、癌との闘病生活が長かった。人間の生死を見つめた作品が多い。享年65。
皿のうへに熟柿一顆はおのが為おとろへし歯の救ひとぞして