食のうたー道浦母都子『食のうた歳時記』(1/8)
道浦母都子『食のうた歳時記』(彌生書房)の「あとがき」に、作者は短歌で食べ物を詠むことの希少さを以下のように述べている。
「一九九三年十月から九四年十月迄の一年間、旬の食物を先取りしながら優れたうたを探し出す作業は思いの外、たいへんな仕事だった。食をうたう、具体的に食物をうたった作品は思ったよりずっと少ないことがわかったからである。人々が緊張を解きほぐす時間である食風景と短歌が必要とする緊迫感とは、どこか相容れないものがあるのだろう。」
この本は春夏秋冬の四季のそれぞれに十数首ずつ食のうたを取り上げている。本ブログでは、食材として具体的な食べ物を詠みこんだ作品をすべて紹介したい。なお詳細な解説は元書に譲る。
[春]
あらあらと海の香のたつ早春の若布にあつき湯をそそぎゐつ
石川不二子
サラリーの語源を塩と知りしより幾程かすがしく過ぎし日日はや
いまわれはうつくしきところをよぎるべし星の斑のある鰈をさげて
葛原妙子
*「星の斑」と感じたところで、海と空とが融合して宇宙のロマンになった。
かたくり浄土むらさき浄土風ふけば花さやさやと地に満ちゆらぐ
*調理に用いられる片栗粉は、もともとカタクリの鱗茎から抽出したデンプンのことを言っていた。カタクリから採取したデンプンは、滋養保険によく、葛のデンプンのように腹痛や、体力が弱った人への下痢止め作用もあるといわれている。(百科事典から)