住のうたー家・庵・宿(4/14)
めづらしく この冬ぞらの、ほのぼのと
いまだあかるき家にかへりつ。 土岐善麿
人みなが家を持つてふかなしみよ墓に入るごとくかへりて眠る
*啄木の独身時代の生活であろうか?
夜昼をいのちきほひて啼く虫のこゑはひびけりふるき我が家
久保田不二子
蜩の高くゐて鳴く木の蔭の家ひそやかに灯(ひ)ともりにけり
今井邦子
家すでに焼きうしなひし学生もしづかに堪へて教室に来つ
窪田章一郎
わが家はがらくたばかりがらくたの一部ぞわれも子も妻もまた
筏井嘉一
気吹舎(いぶきのや)の大人(うし)やどりしとふ旧き家の長押(なげし)の上の三本の槍
佐佐木治綱
*気吹舎: 平田篤胤(江戸時代後期の国学者・神道家・思想家・医者)の号。
定住の家をもたねば朝に夜にシシリイの薔薇やマジョルカの花
斎藤 史
*下句は、定住の家をもたないことで、かえって精神が豊かで自由であった、と言いたいのであろう(比喩)。
ぶるうすをひとたび踊り別れしが家をも名をも知らざりにけり
家も子も構はず生きよと妻言ひき怒りて言ひき彼の夜の闇に
高安国世