住のうたー家・庵・宿(7/14)
秋の野のみ草刈り葺(ふ)き宿れりし宇治のみやこの仮廬(かりいほ)し思ほゆ
*「秋の野のみ草を刈って屋根を葺いて、泊まった宇治の宮処の仮の宿のことを思い出します。」
わが背子は仮廬(かりほ)作らす草(かや)無くは小松が下の草(かや)を苅(か)らさね
万葉集・中皇命
*「愛しい人よ、もしも一夜の仮の宿を作る草がなかったなら小松の下の草を刈って屋根に葺いてください。」
倭(やまと)には聞えゆかぬか大我(おほがの)野(の)の竹葉(たかは)刈り敷き廬せりとは
万葉集・作者未詳
我が庵は都のたつみしかぞすむ世をうぢやまと人はいふなり
古今集・喜撰
*「私の庵は都の東南にあって、このように暮らしているというのに、世を憂いて逃れ住んでいる宇治(憂し)山だと、世の人は言っているようだ。」
みやま田のおくての稲をほしわびて守る假(かり)庵(ほ)に幾夜経ぬらむ
我が庵は三輪の山もと恋しくばとぶらひきませ杉たてるかど
古今集・読人しらず
*「私の庵は三輪山の麓、逢いたければ門にある杉の木を目印に訪ねていらっしゃい。」
秋の田のかりほの庵のとまをあらみ我が衣手は露にぬれつつ
*かりほの庵: 「かりほ」は「かりいお」がつづまったもので、農作業のための粗末な仮小屋。
とま(苫): スゲやカヤで編んだ菰(こも=むしろ)のこと。
「秋の田圃のほとりにある仮小屋の、屋根を葺いた苫の編み目が粗いので、私の衣の袖は露に濡れていくばかりだ。」