わが庵は小倉の山の近ければうき世をしかとなかぬ日ぞなき
新勅撰集・八条院高倉
*しかと: はっきりと。「鹿と」を掛ける。
「私の住む庵は小倉山が近いので、憂き世を悲しみ鹿とともに泣かない日はない。」
長閑なる日影はもれて笹竹に籠れる庵も春は来にけり
上田秋成
我が庵(いほ)は松原つづき海近く富士の高嶺を軒端にぞ見る
太田道灌
吾が庵をいづくにせむと思ひつつ見つつもとほる天(あめ)の花原
伊藤左千夫
*もとほる: めぐる、徘徊する。
人皆の箱根伊香保と遊ぶ日を庵に籠りて蠅殺すわれは
正岡子規
庵かこむ高槻の葉に雨多し清(すが)しさ過ぎて寒き日もあらむ
島木赤彦
*槻の木はケヤキの古名。したがって高槻は、背の高いケヤキのこと。