天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー家・庵・宿(10/14)

  人の見て言(こと)咎(とが)めせぬ夢にわれ今夜(こよひ)至らむ屋戸閉(さ)すなゆめ

                 万葉集・作者未詳

*「人が口うるさくとがめだてしない夢、その夢の中で私は今夜逢いに行きます。決して戸を閉ざすことのないように。」

 

  鶉鳴き古しと人は思へれど花橘のにほふこの屋戸

                 万葉集大伴家持

  わが屋戸のいささ群(むら)竹(たけ)吹く風の音のかそけきこの夕(ゆふべ)かも

                 万葉集大伴家持

*いささ群竹: 少しばかり(いささ)群がって生えている竹。

 

  十月(かむなづき)時雨の雨に濡れつつか君が行くらむ宿か借るらむ

                 万葉集・作者未詳

  大橋の頭(つめ)に家あらばうらがなしくひとり行く子に宿貸さましを

                万葉集高橋虫麻呂

*「大橋のたもとにわたしの家があったなら、一人で悲しそうにゆくあの娘子に、宿を貸してやるのだが。」

 

  我が宿の花見がてらにくる人は散りなむのちぞ恋しかるべき

                古今集凡河内躬恒

  我が宿にさける藤波たちかへり過ぎがてにのみ人の見るらむ

                古今集凡河内躬恒

*「 我が家の庭に咲いた藤を、通り過ぎた人がわざわざ引き返してきて、立ち去りがたそうに見るだろう。」

 

  夜やくらき道やまどへる郭公(ほととぎす)わがやどをしも過ぎがてに鳴く

                古今集・ 紀 友則

*「夜の闇が暗いのか。道に迷ったのか。時鳥は、ちょうど我が家のあたりを通り過ぎにくそうに鳴いている。」

 

  いまさらに山へかへるな郭公(ほととぎす)こゑのかぎりは我がやどに鳴け

                古今集・読人しらず

  我がやどの池の藤波さきにけり山ほととぎすいつか来なかむ

                古今集・読人しらず

 

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藤波