住のうたー家・庵・宿(11/14)
女郎花うしろめたくも見ゆるかな荒れたるやどに独りたてれば
*「あの女郎花がうしろめたく見えるなあ。荒れた庭に独りで咲いているのだから。」
なきわたる雁の涙やおちつらむ物思ふ宿の萩のうへの露
古今集・読人しらず
里はあれて人はふりにし宿なれや庭もまがきも秋の野らなる
我が宿は道もなきまであれにけりつれなき人を待つとせしまに
夕暮れの籬(まがき)は山と見えななむ夜は越えじとやどりとるべく
*「夕暮れの中で、垣根は山のように見えてほしい。そうすれば客人は夜は山をこえないでおこうと、ここに宿をとってくれるだろうから。」
今よりはつぎて降らなむわが宿のすすきおしなみふれるしら雪
古今集・読人しらず
*つぎて降らなむ: 続いて降ってほしい。 すすきおしなみ: ススキを押しならして。
うちつけに寂しくも有るかもみぢ葉も主なき宿は色なかりけり
古今集・源 能有
*うちつけに: 急に物事が起こるさま(急に、突然に)。
「急に寂しく感じてしまうことだ。紅葉でさえも主人のいなくなったこの庭ではその色を失ってようだ。」
世の中はいづれかさしてわがならむ行きとまるをぞ宿と定むる
古今集・読人しらず
*「この世の中はどこを指して自分の居場所と言えるのだろう、途中足を止めた所を宿と定めよう。」
飛鳥川ふちにもあらぬわが宿もせに変りゆくものにぞありける
古今集・伊勢
*「飛鳥川、淵ではないわが家も、瀬ならぬ銭に変りゆくものだったことよ。」(飛鳥川の渕は瀬に変わることがある。)
宿もせに植ゑなめつつぞわれはみる招く尾花に人やとまると
後撰集・伊勢