天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー部屋(2/2)

  九官鳥の籠に黒布を被ひたる部屋に密葬の燈はともりゐつ

                       真鍋美恵子

*密葬: 身内だけで内々に行う葬式のこと。

九官鳥は、人語や他の鳥の鳴きまねがうまいので、その籠に布をかぶせておかなと、いろいろ騒がしく声をあげる。密葬の邪魔になるのだ。

 

  秋となれば部屋と部屋とを胡桃(くるみ)の実の如く区切りて誰も孤(ひと)り棲む

                       真鍋美恵子

  我楽苦多は室(へや)の隅より責めゐしが寝しづまりてか真夜を音せず

                       前川佐美雄

*我楽苦多: 使い道のない、役に立たないもののことで、値打ちのない雑多な品物や道具類などを差す。昼間に見ると責められる気分になるが、真夜には音もたてず寝静まるので落ち着く、という。

 

  わが部屋を抜けてゆきしは風かともまた人の来て覗きたるとも

                        毛利文平

  黄菊白菊活けられてゐて夜の部屋死の匂ふごとき危ふさに居り

                        斎藤 史

*黄菊や白菊の活けられている部屋は、夜ともなると死人の部屋に感じられてヤバイのだ。

 

  物置きの如きわが部屋に埃たて一年の時間をはたき出しをり

                        藤岡武雄

  デジタルの時計音ふいに耳につき俄かに寒きわが部屋となる

                       西尾芙美子

  何もなき細長き部屋にわれはゐて生まれ来し戸も未だ見えをり

                        大津仁昭

*作者が生まれてきたときは、細長い部屋は戸で仕切られていたのであろう。

 

  日のあたる<空き部屋>にあたたかき空気ありこの世に来ている自分の感じ

                        渡辺松男

 

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九官鳥