天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー窓・戸・玄関(4/5)

  あしひきの山桜戸を開け置きてわが待つ君を誰か留むる

                万葉集・作者未詳

*山桜戸(やまさくらと):  山桜を板にして作った戸のこと。

「山桜戸を開けたまま私が待っているあの方を、いったい誰が引き留めているのかしら。」

 

  さ夜更(ふ)けて今は明けぬと戸を開けて紀へ行く君を何時(いつ)とか待たむ

                万葉集・作者未詳

*「夜が更けて今日は明けたぞと戸を開いて紀の国へ旅立っていったあの人。いつまで待っていたらよいのかしら。」

 

  を笹(ざさ)ふくしづのまろやのかりの戸を明け方に鳴くほととぎすかな

                新古今集・藤原実定

*「小笹で葺いた猟師の山の仮小屋の戸を開けるその明け方に鳴くほととぎすよ。」

 

  ながめすててひとりこもれる柴の戸を心にささぬ秋の夕ぐれ

                   木下長嘯子

  臥しながら雨戸あけさせ朝日照る上野の森の晴をよろこぶ

                    正岡子規

  ガラス戸のそとに飼ひ置く鳥の影のガラス戸透きて畳にうつりぬ

                    長塚 節

  遥かなる木の間に見ればせきし戸をけふは開けり谷の一つ家

                    大隈言道

*谷にある一つ家を遠く木の間から見ると、いつもは閉ざしてある戸が今日は開けてある、という。

 

  戸を閉ぢし鰊乾場(にしんかんば)の板壁に八月の陽は赤々とさす

                    石榑千亦

f:id:amanokakeru:20201006065512j:plain

上野の森