天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー家具・調度(2/5)

  かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は
                        大西民子
*十年間の別居後に離婚した作者には、未練があったのだ。

  状況のかの欠落に降りたまる雪ありて青年の去りし夜の椅子
                       馬場あき子
*青年が座っていた椅子を見ていて、上句を想ったのだろう。その比喩を鑑賞することは容易でない。

  間引かれしゆゑに一生欠席する学校地獄のおとうとの椅子
                        寺山修司
寺山修司の禍々しい虚構が、「間引き」「学校地獄」に現れている。想像して解釈しても共感できるかどうか。

  めをほそめみるものなべてあやうきか あやうし緋色の一脚の椅子
                        村木道彦
*上句のひらがな表記が効果的。

  この椅子をわたしが立つとそのあとへゆっくり空がかぶさってくる
                        沖ななも
  立ちて斜めにひくくせのある椅子の位置帰りきたりてそのまま坐る
                        森比佐志
*作者以外には誰も座らなかったのだ。なんか淋しい生活が思われる。

  椅子に居てまどろめるまを何も見ず覚めてののちに厨に出でぬ
                        森岡貞香
*椅子に座って微睡んだけれど、夢など見なかったということか。

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椅子2