天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー家具・調度(5/5)

  朝あけてベッドの卓に吸呑みが人亡き部屋の光りをうつす

                        村野次郎

*亡くなった人の部屋の朝の情景。生々しく感じる。

 

  わが坐るベッドを撫づる長き指告げ給ふ勿れ過ぎにしことは

                        相良 宏

*ベッドを撫づる長き指の持ち主(女性であろう)の居場所・姿勢が想像しがたい。「告げ給ふ」からは、過ぎ去ったことを告白しようとしている情景が思われる。

 

  太初からこぼるるさまに散りいそぐひとときのさくらベッドにふりて

                        前登志夫

  吾がベッドの向うに床(つか)寝(ね)の妻あれば常に心にいたいたしく思ふ

                        五味保儀

*自分はベッドに寝ていて奥さんは床に寝ている。通常の生活とは違うようだ。もしかして作者は病気で、奥さんは看病していたのか?

 

  寝台(ベッド)わが四角い荒野みあげれば繃帯の雨 わが顔濡らす

                        福島泰樹

  くらやみの部屋手さぐりに入りしときわれのベッドはくれないとなる

                       岡部桂一郎

  蒲団ごと運ばれてゆく幼子はひゃんらんひゃらりこちちははの笛

                        加藤治郎

  十区住む娘と思へず晴れし日は布団を干しやりふくふく取り込む

                        河野裕子

*初句二句が分かりにくい。十区間離れて住む娘ということか? 晴れた日は、わざわざやってきて蒲団を干したり取り込んだりしてくれる、ということか。

 

  ふはふはとしたる蒲団に臥すままに精神(こころ)もふはふはとなることなきか

                       安立スハル

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ベッド