音を詠む(1/6)
音は、物の振動によって生じた音波を、聴覚器官が感じとったもの。その転用として、うわさ、評判、便り、音沙汰、鳥獣の声 などを意味する場合がある。
おとの語源は「あつ(当)」の変化という。他の読み方には、いん、おん、ね、と、おっと などがある。
都武賀野(つむがの)に鈴が音聞ゆ上志太(かむしだ)の殿の仲子(なかち)し鷹狩(とがり)すらしも
万葉集・東歌
*仲子: 兄弟の中で長子でも末子でもない者。次男か。
「都武賀の野から鈴の鳴る音聞こえてくるよ。可牟思太のお屋敷に住む次男坊が
鷹狩なさっているようだ。」
わが屋戸のいささ群(むら)竹(たけ)吹く風の音のかそけきこの夕(ゆふべ)かも
*いささ群竹: 少しばかり群がって生えている竹。「いささ」は「いささか」の語幹。
ぬばたまの月に向ひてほととぎす鳴く音(おと)遥(はる)けし里(さと)遠(とほ)みかも
*遠みかも: 万葉時代独特の言い方で、遠いだろうという推量を表す。
「夜空の月のほのかな光に向かってほととぎすが鳴く。その声音は、遥か彼方から、かそぼそく聞こえてくる。まだ、人里遠い山の中にいるからだろうか。」
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならば音はしてまし
後撰集・中務
*「私に「飽き」たというのか。秋風が吹くにつけても、あなたは気配さえ見せない。荻の葉ならば音を立てるだろうに。」
滝つ瀬の早からぬをぞ恨みつるみずとも音に聞かむと思へば
後撰集・読人しらず
みやこまで音にふりくる白山はゆきつきがたきところなりけり
後撰集・読人しらず