音を詠む(3/6)
日をへつつ音こそまされいづみなる信太のもりの千枝の秋かぜ
新古今集・藤原経衛
*「日が経つにつれて、音がいよいよ高くなることだ。和泉国の信太の森の楠の数知れぬ枝々を吹く秋風は。」 信太の森: 和泉国の歌枕。
秋風のややはだ寒く吹くなべに荻のうは葉の音ぞかなしき
新古今集・藤原基俊
*「秋風がだんだん肌寒く吹くようになるにつれて、荻の葉の上を吹く風の音が泣きたくなるような気持にさせることよ。」
おのづから音するものは庭のおもに木の葉吹きまく谷のゆふ風
新古今集・藤原清輔
木がらしの音に時雨を聞きわかで紅葉にぬるる袂とぞ見る
*「木枯らしの音に混じる時雨の音を聞き分けずに、紅葉のような紅涙に袖が濡れていると思ったのだ。」 要するに時雨に濡れているのではなく、紅涙で袂が濡れていると見たいのだ。
音に聞く君がりいつか生(いき)の松待つらむものを心づくしに
新古今集・寂然
*「噂に聞く生の松原のもとにいつ行けましょうか。待っていて下さるでしょうに、心を労して。」
音にのみ聞けばかひなしほととぎすこと語らはむと思ふ心あり
風雅集・藤原兼家
*「ほととぎすの声を聞くように、あなたの噂ばかり聞くのはせつない。直接お会いして話がしたいものだ。」
鳥の声松の嵐の音もせず山しづかなる雪の夕ぐれ
風雅集・永福門院