音を詠む(6/6)
いたむ胸したにして待つわが妻の跫音(あしおと)ひくく凍てたる廊下
小名木綱夫
不思議なり千の音符のただ一つ弾きちがへてもへんな音がす
数かぎりなき飛天(ひてん)は空をあまがけり地に楽の音のわきたつところ
*飛天: 一般には虚空を飛ぶ天人のこと。ことに仏教において,仏の浄土の空中を飛びながら天の花を散らし,あるいは天の音楽を奏し,あるいは香を薫じて仏を讃える天人を意味する。(百科事典による)
海にふる雨垂直に音もなくわが音声の潤ひだちぬ
菊池良子
わが耳に馬のたふれし音のせりもののふ一人(いちにん)歸りて果てし
森岡貞香
思ほえぬかそけき音をきくものか針の尽きにしホチキスをおく
*思ほえず: 思いがけず。
なおホチキス(ホッチキスとも)という名称は、この製品を作った会社名の
E・H・HOTCHKISS社(アメリカ)に由来する。
いくたびも微けき音をたしかむる耳癒えしかと紫蘇の穂を振り
原田満恵