血のうた(5/5)
聞くための柔らかき襞日に透きてうすき血をもつにんげんの耳
三枝浩樹
窓に灯の蕭々と洩れ音もなく殺人現場の血を跨ぎゆく
砂田武治
魚けもの人も淋しき春の血を溜めてねむらむ夜空がひらく
河野愛子
血しほにもみちひきありておのづから満潮の夜の一身あをし
玉井慶子
血の流れゆく音はかくたへがたくありけむものか夜(よは)覚めてゐつ
小野興二郎
*小野興二郎: 多病の生涯であった。大学に入学するが、結核にかかり帰郷して肺葉切除を受ける。大学卒業後、肝生検のショックで入院し、視力障害を患う。以後、入退院を繰り返しながら、歌作を続ける。人間存在の根源について鋭く問いかけるものであった。
とくとくと血潮循(めぐ)る身さらさらと水の循る樹 いのち曝して
羽生田俊子
血の色をみたくて人さし指を切るひむがしに朱の滲む雪の野
綾部光芳
*作者は、幻想と写実の間を漂うような独自の世界を創造した、と言われる。