手紙のうた(3/4)
墨薄く悔みの手紙かきつれどいまさらさらに何をかいはむ
吉野秀雄
出さざりし手紙日を経て破りをり屈折はわが裡にて終る
森山晴美
身辺をととのへゆかな春なれば手紙ひとたば草上に燃す
小中英之
とどきたる手紙の真意はかりつつ切り開く白菜の株の緊密
北沢郁子
自分宛の手紙を置きて眠る子よ「昨日のさほ子より」と書かれて
竹安隆代
たましひの手くらがりにて人の世のひとりにてがみ書きゐたりけり
高野公彦
*手紙を手くらがりの状態で書いているときの気分を詠んだものだが、下句が当たり前のようでありながら考えさせる表現になっている。
水色のリボンに束ねし古き手紙が忘れゐし清きうた唄いひ出す
畑 和子
*昔の清純な付き合いを思い出させる手紙の束なのだろう。