あの世のこと(1/6)
あの世とは、この世とは別の世界を指す。一般には死後の世界をいうとされているが、ここではもっとも広く前世、来世、後の世、常世、黄泉の国などととらえて、それらについて詠んだ作品を見てみよう。
さきの世の契りをしらではかなくも人をつらしと思ひけるかな
金葉集・前中宮上総
*つらし: 「辛し」。薄情だ。冷淡だ。つれない。
きのふをば千とせの前の世とも思ひ御手なほ肩に有りとも思ふ
上毛(かみつけ)の西ふるさとの城山(じやうやま)に蘭(らん)掘りし日は前の世の事か
吉野秀雄
*上毛: 群馬県。城山は五か所もある。
君見し日われは君知る前世か熟睡(うまい)の夜かとつぶやきにしか
窪田空穂
月下の叢に一匹の犬とゐる前世の恋人同志のやうに
石川不二子