この世のこと(1/16)
この世として世の中、人の世、うき世(憂き世、浮世)などについて詠んだ作品を見ていこう。人間社会、世間、俗世、世情、景気、男女の間柄、自然界 等々に思いをはせた歌群である。
朝露は消えのこりてもありぬべし誰かこの世を頼みはつべき
*「朝露はほとんど消えるといっても、残るものも稀にあるでしょう。ですが誰がこの世(貴方との仲)を最後まで頼りにできましょうか。」
難波津をけふこそみつの浦ごとにこれやこの世をうみ渡る船
*「難波津を今朝こそ見たが、浦ごとに浮かぶこれらの海を渡る船は、世の中を渡ることに倦んだ船なのだろうか。」
みつの浦: 御津と見つとをかけた、御津は難波津のこと。 うみ渡る: うみは、海と憂みをかけた。
あらざらむこの世のほかのおもひでに今一度の逢ふこともがな
*「わたしはこのまま、この世からいなくなってしまうので、来世への思い出に、もう一度あなたにお逢いしたいのです。」 百人一首にとられている有名歌。和泉式部が死の直前に詠んだという。
契りありてこの世にまたも生まるとも面がはりして見もや忘れむ
*この世にまた生れてきても、面変わりしていて見ても忘れているだろう。
このよだに月まつほどは苦しきにあはれいかなる闇に惑はむ
詞花集・源 顕仲