この世のこと(3/16)
難波潟みじかき葦のふしの間もあはで此の世をすぐしてよとや
新古今集・二条院讃岐
*「難波潟に生えている葦の、その短い節と節の間のように短い間も、あなたに逢わずにこの世を過ごせと言うのでしょうか。」
思ふべき我が後の世は有るか無きか無ければこそはこの世には住め
如何にしていかに此の世にありへばか暫しもものを思はざるべき
忘れなば生けらむものかと思ひしにそれもかなはぬ此の世なりけり
新古今集・殷福門院大輔
*「あの人に忘れられ、見捨てられたなら、生きてなどいられるものか。――そう思っていたのに、死ぬことも叶わないこの世なのだ。」
行く人のむすぶに濁る山の井のいつまですまむこの世なるらむ
新勅撰集・藤原光頼
山桜このよのまにや咲きぬらし朝けの霞色にたなびく
玉葉集・伏見院
惜しむとて惜しまれぬべきこの世かな身を捨ててこそ身をも助けめ
*「惜しむといっても惜しむほどの値打ちのあるこの世だろうか。この身を捨ててこそ身を救うことができるだろう。」 妻子を捨てて出家することを思い立ったころの歌。
ひとたびは落つるを見ても夕雲雀あがるこの世を誰か思はむ
心敬