この世のこと(4/16)
むらぎもの心ぐるひしひと守(も)りてありのまにまにこの世は経(ふ)べし
*むらぎもの: 「心」にかかる枕詞。心の働きは内臓の働きによると考えられたところから。
斎藤茂吉は精神科医であり、青山脳病院(現在の都立梅ヶ丘病院や斉藤病院)の院長を務めた。
熱き蝋わが手に散りて火を継げばこの世の生も
たいせつにせん 前田 透
たくさんの集を作りて死にもせむ只ちよちよつとのこの世を生きて
*作者には生前の歌集16冊の外に評論集、エッセイ集などがあった。乳癌が判明し、64歳で亡くなった。
紅梅の咲きたりといふ一語さへ老い初めて知るこの世の滋味ぞ
築地正子
緑葉も空も見えざるきみを措きてわれはこの世の風に触れゆく
雨宮雅子
*「きみ」は目が見えない人のようだ。
空の芯ほのかに澄みて人逝きてこの世のことはいたしかたなき
三枝昂之
なつぼうしまぶかく吾子にかぶらしむこの世見せたくなきものばかり