この世のこと(12/16)
住めばまた憂き世なりけりよそながら思ひしままの山里もがな
兼好
*「世を逃れて住めば、ここもまた憂き世であったよ。よそから眺めて住みよいと思った、そのままの山里はないものだろうか。」
習ひぞと思ひ做してや慰まむ我が身一つに憂き世ならねば
兼好
*「世の習いだと思い込んで慰めることとしよう、自分一人の憂き世ではないので。」
山里の軒端に近き椎柴のしひてうき世にいつまでか経む
新千載集・永福門院
*上句は「しひて」(無理して)の序詞か。椎柴は、椎の小枝あるいは椎の木の群がり生えている所。
よしやただうき世に何か久方の月をのみこそ花をのみこそ
木下長嘯子
のがれめや雲居をわたる月だにも影は浮世の外にやはすむ
八田知紀
*雲居: 雲のたなびいている所。大空。
亡き姉よ浮世の冬は早くして雪ばんばあがもう踊れるよ
山崎方代
*雪ばんばあ: 雪婆(雪ばんば)という妖怪を指すが、綿虫の俗称でもある。