この世のこと(13/16)
世間(よのなか)を何に譬(たと)へむ朝びらき漕ぎ去(い)にし船の跡なきがごと
万葉集・沙弥満誓
*「この世の中を、いったい何に譬えようか。朝、港を漕ぎ出して行った、船の波の跡が残っていないようなものだ。」
世の中はいかに苦しと思ふらむここらの人に恨みらるれば
*「この世に心があるならば、さぞかしつらいと思っているだろう。多くの人々に恨み言をいわれるので。」
世の中はうき身に添へる影なれや思ひすつれど離れざりけり
金葉集・源 俊頼
世の中は見しも聞きしもはかなくてむなしき空の煙なりけり
新古今集・藤原清輔
秋風になびく浅茅の末ごとに置く白露のあはれ世の中
新古今集・蝉 丸
世の中は常にもがもな渚こぐあまの小舟のつなでかなしも
新勅撰集・源 実朝
*つなで: 舟のへさきにつけてある綱。
「この世の中は、いつまでも変わらないでいてほしいものだ。渚にそって漕いでいる、漁師の小船をひき綱で引いている風情はいいものだよ。」