天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

この世のこと(14/16)

  虎とのみ用ゐられしは昔にて今は鼠のあなう世の中

                    増鏡・宗尊親王

*「虎とばかりに畏れられる地位に置かれたのは昔のことで、今は鼠が穴に潜むように逼塞している――ああ無情な世の中よ。」

 

  彼是となにあげつらむよの中は一つの玉の影としらずて   

                         良寛

*「この世の中は一つの玉の影と知らないで、なぜあれやこれやと物事の理非、可否を論じ立てるのだろう。」

 

  世の中は常なきものと我が愛(め)づる山吹の花散りにけるかも

                       正岡子規

  世の中をあらみこちたみ嘆く人にふりかかるらむ菩提樹の華

                       長塚 節

*「世の中をああだこうだと嘆く人に菩提樹の花がふりかかるだろう。」

 

  世の中の明るさのみを吸ふごとき

  黒き瞳の

  今も目にあり               石川啄木

 

  世のなかにしたがふ道を

  説かざりき。

  あやまち多き

  教へ子のかず               釈 迢空

 

  世間から外れたような夕闇にひらくたんぽぽ四五輪がほど

                      石田比呂志

 

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山吹の花