この世のこと(14/16)
虎とのみ用ゐられしは昔にて今は鼠のあなう世の中
増鏡・宗尊親王
*「虎とばかりに畏れられる地位に置かれたのは昔のことで、今は鼠が穴に潜むように逼塞している――ああ無情な世の中よ。」
彼是となにあげつらむよの中は一つの玉の影としらずて
*「この世の中は一つの玉の影と知らないで、なぜあれやこれやと物事の理非、可否を論じ立てるのだろう。」
世の中は常なきものと我が愛(め)づる山吹の花散りにけるかも
世の中をあらみこちたみ嘆く人にふりかかるらむ菩提樹の華
長塚 節
*「世の中をああだこうだと嘆く人に菩提樹の花がふりかかるだろう。」
世の中の明るさのみを吸ふごとき
黒き瞳の
今も目にあり 石川啄木
世のなかにしたがふ道を
説かざりき。
あやまち多き
教へ子のかず 釈 迢空
世間から外れたような夕闇にひらくたんぽぽ四五輪がほど