歌枕の衰退(2/3)
[鳴海潟]「成る身」「成る」「なり」に掛け、「浦」に「恨み」をかけてよく詠まれた。
風吹けばよそになるみのかた思ひ思はぬ波に鳴く千鳥かな
都おもふ涙のつまとなるみがた月にわれとふ秋の塩風
拾遺愚草・藤原定家
[打出の浜]「うちいづ」に掛けたり、序詞に用いてよく詠まれた。
近江なる打出の浜のうちいでつつ恨みやせまし人の心を
拾遺集・よみ人しらず
[御津]「満つ」と掛詞にされた。
諸人の願をみつの浜風に心すずしき四手の音かな
[白河の関]白河の「白」の関連で卯の花や雪、青葉、紅葉などが取合せられているが、平安時代末期から中世にかけての和歌の常道であった。以下の千載集の例が
典型。
たよりあらばいかで都へつげやらむ今日白河の関は越えぬと
拾遺集・平兼盛
都をば霞とともにたちしかど秋風ぞ吹く白河の関
後拾遺集・能因
白河の関屋を月のもる影は人の心をとむるなりけり
山家集・西行
都出でてあふ坂越えし折までは心かすめし白川の関
山家集・西行
都にはまだ青葉にて見しかども紅葉散りしく白河の関
千載集・源頼政
見で過ぐる人しなければ卯の花の咲ける垣根や白河の関
千載集・藤原季通
東路(あづまぢ)も年も末にやなりぬらむ雪降りにけり白河の関
千載集・印性
白川の関より奥に入らむ旅野くれ山くれ日数あまたへむ
橘 曙覧
白河の関趾にしばしいこひたりおそふ蚊のなき古木々の下
佐藤佐太郎
これよりの旅寝の奥やいかならむ秋風ふきぬ白川の関
安藤野雁
平兼盛、能因、西行らの作品は、史跡としての歌枕をよく表現した名歌と言える。