天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌枕の衰退(3/3)

 近現代の考え方については、加藤治郎『短歌レトリック』(風媒社)にまとめられている。最も詳細な考察は、佐佐木幸綱の定義であろう。近代歌枕を「近代短歌の読者が幻想を共有できる地名」だとして次の七つの条件を挙げている(「短歌」1995.5 歌枕の特集から)。現代短歌にも援用できるか。 

 (1)有名な近代短歌に出てくる地名。

 (2)しかるべき近代歌人のふるさと、あるいは居住地で、知られている歌がある

    地名。

 (3)近代短歌史上、よく知られた旅の旅先、または有名歌人の赴任先の地名。

    もちろん、知られた歌があること。

 (4)しかるべき観光地で、その土地をうたった、あるいはその土地で作歌された

    歌の歌碑がある土地。

 (5)近代短歌史上、周知のエピソードが残っている土地で、その地名のでてくる

    歌がある場合。

 (6)複数の近代歌人が、しかるべき歌をうたっている地名。

 (7)古典の歌枕で、しかも近代歌人がうたっている地名。

 

 歌枕の例として、伊良湖(崎)をあげている。

  潮騒に伊良虞の島辺漕ぐ船に妹乗るらむか荒き島廻(しまみ)を

                    万葉集・柿野本人麿

  すたか渡るいらごが崎をうたがひてなほきにかくる山帰りかな

                       山家集西行

  わが杜国わが鷹の不在ひさしきに壮(さかん)なる雲立つ伊良湖

                春日井建『行け帰ることなく』

  伊良湖のありその山に飛ぶ鳶のおりてゆきたり松山の中に

                     土屋文明『山谷集』

 

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伊良湖