音楽を詠む(1/3)
楽器の歌については、過去にすでに取り上げたので、ここではいくつかの音楽の形態について詠んだものをとりあげる。
聞く人のなげぶしの唱歌にも浪あらじとはよき小歌ゆゑ
戸田茂睡
*なげぶし: 江戸時代の三味線伴奏の流行歌。最後の旋律を投げるように歌い止めたのでこの名がある。7・7・7・5の近世歌謡調。京都島原の遊郭で起こり,大坂・江戸などでも流行した。(百科事典)
清元の秋いつか過ぎ歌沢の冬いちはやくわれに来ぬらし
吉井 勇
*清元: 江戸浄瑠璃の一。清元延寿太夫を祖とし、富本節から分かれた。浄瑠璃中最も派手で粋な語り口をもち、裏声による技巧的な高声に特色がある。
歌沢: 端唄から派生した江戸後期の短い歌謡。端唄に対してこってりとうたう。
崩されたデモの帰りの憤懣だ小気味よく出る仲間の歌ごゑ
坪野哲久
たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは思ひき
近藤芳美
少女らの合唱は暗き灯のもとに高まりてゆくマリア・アベ・マリア
吉田 漱
血紅(けつこう)の魚卵に塩のきらめける真夜にして胸に消ゆる装飾楽句(カデンツア)
*カデンツァ: 独奏協奏曲やオペラ等のアリアにあって、独奏楽器や独唱者がオーケストラの伴奏を伴わずに自由に即興的な演奏・歌唱をする部分のこと。
真夜中に魚卵のかたまりを見ている時に即興曲が胸に響いたという。とり合わせが前衛的というべきか。