天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

音楽を詠む(3/3)

  プールにはロックながれてゐたりけり身体(じく)のつかれをひたぶるに恋ふ

                      吉岡生夫

  音楽は聞こえざれども三階の窓に拍手をとる少女みゆ

                      志垣澄幸

*音楽は聞えないが三階の窓に歌っている少女が見えて、周囲の人々が拍手しているのであろう。

 

  音楽のなかをあゆめり ゆくえなき午後をつつみて野分のごとし

                      三枝浩樹

*或る日の午後、あてもなく音楽を聴きながら歩いているときに感じた心境であろう。

 

  音楽は抽象ならずある時は身に打ち込まるるくさびとおもふ

                      稲葉京子

  生命がまだ音楽でありし世の水中ホルンあうむ貝恋ふ

                     小島ゆかり

*あうむ貝: オーム貝。生きている化石のひとつ。その祖先は4億5000万年前 - 5億年前に誕生し、それからの原始的性質を色濃く残した生物とされる。歌は、楽器のホルンを想わせるオーム貝からの発想であろう。

 

  あさでんしやひるでんしやみなやさをとこ音楽を耳から汲み入れてゐる

                     馬場あき子

*朝夕の電車に見かける優男たちがみなイヤホンで音楽を聴いている情景。

 

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オーム貝