絵画を詠む(1/6)
わが妻も絵に描(か)きとらむ暇(いづま)もが旅行く吾(あれ)は見つつしのはむ
万葉集・物部古麿
*「私の妻の絵でも描く時間があったなら、旅の道中で絵を見て妻のことを偲ぶことができるのに。」
絵にかける鳥とも人を見てしがな同じところを常にとふべく
後撰集・本院侍従
いかにしてうつしとめけむ雲居にてあかず隠れし月の光を
後拾遺集・出羽弁
*「どのようにして写し留めることができたのでしょう。空の彼方にあって、満足に見ることも出来ないうちに、別れてしまった月の光を。」 この歌には、次のような詞書がある。
「菩提樹院に後一条院の御影を描きたるを見て、見なれ申しけることなど思ひ出でてよみ侍りける」
ルウヴルはわれには無限の感ふかしボチツエリひとつに相対ひても
雪にゑがくセガンチーニの哀しみは雪の上に残る風の形あり
*一首は、セガンチーニの一生を象徴しているようだ。彼の伝記を見るとよく納得できる。
虔(つつま)しきミレエが画(ゑ)に似る夕あかり種蒔人(たねまき)三人(みたり)身をかがめたり
見るたびに圧(お)さるるばかりCezanne(セザンヌ)の画面のりんごかがやき深む
筏井嘉一
桜よりうまれしひとに抱かれぬかの歌麿が浮世絵のごと
吉井 勇
*上句の比喩が分かりにくいが、耽美派の歌人・劇作家らしい作品。