絵画を詠む(4/6)
風の吹く夜にてゴッホ自画像の赤き瞳を吾は見てゐし
長澤一作
そこに人の立ちし事なき白き坂 壁の繪として持ちし半生
斎藤 史
椅子二つ空飛ぶ絵あり人間の重さ逃れし椅子らたのしげ
斎藤 史
我は待てり壁画の人が引きしぼる弓弦(ゆづる)ほどけて元にもどるを
斎藤 史
藤の絵に替へて垂れたる草坪の牡丹の花に蝶ちかづきつ
二宮冬鳥
*草坪: 芝生。 藤の絵から牡丹の花の絵に替えたら蝶が近寄ってきた、という。
天狼星(シリウス)の絵を頬の下に敷きてねむる子は机(き)の上に息を這わせて
堀部知子
補陀落を指す一艘の船を置き月かげ暗き絵などありしか
米田律子
*補陀落: インド南端の海岸にあり、観音が住むという八角形の山。
その補陀落を目指す一艘の船を月が照らす暗い絵があった、という。