天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

絵画を詠む(5/6)

  呆然と漫画のうへに涙垂る人と別れてこし夜の電車

                        岡野弘彦

  大津絵の念仏(ねぶつ)の鬼のほの笑い木木のさやぎにまじり売らるる

                       馬場あき子

*大津絵: 江戸初頭より近江大津の追分あたりで売り出された民俗絵画のこと。

 

  南蛮屏風に描かれし船室に横たはり細目で日本を見てゐる男

                       馬場あき子

  大津絵の鬼に背中をたたかれぬ叩かれた背がいつまでもさびし

                        永井陽子

  大津絵の鬼のかつぎし鉦(しょう)の音(ね)の光りてとよむ桃のおぼろ世

                       辺見じゅん

*とよむ: 「響む」で、鳴り響く、響きわたる。

 

  菖蒲(あやめ)葉を垂直に降るきりぎりすの小宇宙あり北斎が描く

                        島田修二

  しぐるるや画集を雲のごとく抱き復た惹かれゆく線のたしかさ

                        岡井 隆

*画集を抱きながらそこに描かれた絵の線の確かさに思いをはせている。

 

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大津絵