感情を詠むー「忍ぶ」(1/4)
「忍ぶ」は心のうちにひそめて、こらえるあるいはがまんするの意味。さらには人目につかないように感情を抑えることをいう。古典和歌には多く詠まれているが、現代短歌では極めて少ない。
辱(はぢ)を忍び辱を黙(もだ)して事も無くもの言はぬ先にわれは依りなむ
万葉集・作者未詳
*「恥かしい行いをしたのにも耐えて言い訳せずに、何を置いてもまずあれこれ言う前に私は翁の教えに従います。」
忍ぶれば苦しきものを人しれず思ふてふこと誰にかたらむ
古今集・読人しらず
*「 一人耐え忍んでいると苦しいものだが、人知れずにあの人を思っているということを誰に語ろうか、語る人もいない。」
あさぢふのをのの篠原しのぶともひと知るらめやいふ人なしに
古今集・読人しらず
*「あさぢふのをのの篠原」の「篠(しの)」が「忍(しの)ぶ」を引き出す序詞になっている。
「茅(ちがや)がまばらに生えた篠竹の野原――想いを抑えつけても、あの人が私の想いを知ることがあるだろうか。伝えてくれる人は誰もいないのだから。」
忍ぶれどこひしき時はあしびきの山より月のいでてこそくれ
古今集・紀 貫之
*「いくらがまんしても恋しくてたまらないときは、 (山から月が出るように)私は家から出てきてしまうのである。」
隠沼(かくれぬ)にしのびわびぬる我が身かな井手の蛙となりやしなまし
*「目立たない所で耐え忍んで泣いている私です。このまま蛙になてしまうのではないかしら。」
時のまのうつつをしのぶ心こそはかなき夢にまさらざりけれ
後撰集・読人しらず