歌麿とは(4/4)
52歳になったころに、美人画ではなく「絵本太閤記」に取材した作品による思わぬ筆禍事件で、手鎖50日という重い刑を受けてしまう。その後復活するものの、画力は衰え意欲も失した歌麿は54歳で、かつて大人気を博した絵師とは思えない寂しい最期を迎えた。
爪楊枝銜へて思ひめぐらせり乳房隠さぬ河岸見世女
箱枕内にひそめし枕絵のことも告げたりそっと娘に
*箱枕: 箱形の木枕。台形の箱の胴の上に、小枕という小さいくくり枕をのせ、その上に枕当て紙を重ねて結んで用いる。
枕絵をあかずながむる娘ゐてそを覗き見る障子のすき間
*枕絵: 男女の秘戯を描いた絵。春画。笑い絵とも。
おしろひの匂ひに慣れて吉原のかむろからかふ筆のすさびに
*かむろ(禿): 吉原などの遊所で,大夫,天神など上級の遊女に仕え将来遊女となるための修業をしていた少女。
浮世絵の深み知りたる西洋に流出したり春画もありき
立て膝の女を描きし歌麿の視線をなぞり人は愉しむ
美しき枕絵なれば美術館国の宝と奥深く秘す
歌麿を詠んだ短歌は極めて少ないようだ。次の一首だけ見つかった。
久保田磯子
ちなみに歌麿は、レオナルド・ダ・ビンチの約三百年後に生まれた。