天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

刃物を詠む(4/8)

包丁

 漢語では「包」は肉を包んでおく場所で「台所」を意味し、「丁」はその仕事に従事する人や使用人を意味する。「包丁」は料理人一般をさすようになり、やがて料理に使う刃物を包丁と呼ぶようになった。(百科辞典

 

  取り落としし包丁が床に突き立てりおまへは何を怒つてゐるのか

                     藤井幸子

*「おまへ」とは、包丁のことか、作者自身のことか。後者であろう。

 

  出刃を振り血を滴らし切りなづむわが飲食の固まりの鰤(ぶり)

                    矢後すみ子

  くひこみて抜けなくなりし包丁がカボチャの上にいかんともし難し

                     小池 光

  ぐきぐきと刃を押し付けて切るときに抵抗しないこの野菜たち

                     前田康子

*野菜にも命があったと思うと、なんとも不気味であり哀れでもある。

 

  怖ず怖ずと菜切り包丁磨ぎ始め柳刃出刃と大胆になる

                     長澤ちづ

菜切り包丁から研ぎ始めて順に柳刃と出刃と研いでいくうちに大胆になった、という。

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包丁