天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

刃物を詠む(6/8)

  鋏刀(はさみ)もつ髪刈人(かみかりびと)は蚊の居れどおのれ螫(さ)さねば

  打たむともせず            長塚 節

 

  狼藉(ろうぜき)の几(つくえ)の上に見あたらぬ鋏をさがす今日も夜ふけて

                     木俣 修

  錐(きり)・鋏光れるものは筆差(ふでさし)に静かなるかな雪つもる夜を

                     宮 柊二

  あたらしき鋏をひらく刃のなかに卵に似たる夜のともしび

                     河野愛子

*開いた鋏の刃に電燈が映ったのだ。

 

  いま暫しおくれてわれは戦(そよ)ぎなむ卓上に大鋏(おほばさみ)見えたる

                     岡井 隆

  鈴鳴らしベッドに鋏つかいいる遠世の鈴か夜半にひびくは

                     濱田陽子

  鋏もてメタセコイアの枝を剪れば鳥のごとくにさえだ落ち来も

                     玉城 徹

*「さえだ」とは、小枝のことだろう。

 

  地下鉄の切符に鋏いれられてまた確かめているその決意

                     岸上大作

*デモか集会に出かけて行こうとしているようだ。

f:id:amanokakeru:20210128064905j:plain