剃刀
ひいやりと剃刀ひとつ落ちてあり鶏頭の花黄なる庭さき
北原白秋
めん鶏(どり)ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人(かみそりとぎ)は過ぎ行きにけり
斎藤茂吉
*歌集『赤光』の代表作品。剃刀研人は茂吉の造語らしい。一首にラ行音が響いている。
見るために両瞼をふかく裂かむとす剃刀の刃に地平をうつし
寺山修司
*上句がいかにも寺山らしい発想。
かみそりの色たとうれば夏桔梗こめかみを剃るこの冷たさは
松平盟子
あかつきの空にざわめく幾万のよろこびもなき剃刀の刃
山田富士郎
*多くの人たちが喜んでいるのに、剃刀で髭を剃っている自分には、喜びが感じられない、という状況か。