天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

刃物を詠む(7/8)

剃刀

  ひいやりと剃刀ひとつ落ちてあり鶏頭の花黄なる庭さき

                     北原白秋

  めん鶏(どり)ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人(かみそりとぎ)は過ぎ行きにけり

                     斎藤茂吉

*歌集『赤光』の代表作品。剃刀研人は茂吉の造語らしい。一首にラ行音が響いている。

 

  見るために両瞼をふかく裂かむとす剃刀の刃に地平をうつし

                     寺山修司

*上句がいかにも寺山らしい発想。

 

  かみそりの色たとうれば夏桔梗こめかみを剃るこの冷たさは

                     松平盟子

  あかつきの空にざわめく幾万のよろこびもなき剃刀の刃

                    山田富士郎

*多くの人たちが喜んでいるのに、剃刀で髭を剃っている自分には、喜びが感じられない、という状況か。

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剃刀