天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

田畑のうた(1/8)

 我々が田畑での農作業を見かけたり、その様子を短歌に詠んだりすると懐かしさを覚えるのは、弥生時代からの日本人の遺伝子によるのであろう。

 

  わが門(かど)に禁(も)る田を見れば佐保の内の秋萩薄(すすき)思ほゆるかも

                   万葉集・作者未詳

*「我が家の門のあたりの田を見張っていると、佐保の里の秋萩やすすきが思い起こされる。」

 

  住吉(すみのえ)の岸を田に墾(は)り蒔きし稲のさて刈るまでに逢はぬ君かも

                   万葉集・作者未詳

*「住吉の、岸を田に耕して蒔いた稲を、こうして刈るまで、ずっとあなたに逢っていません。」

 

  あしひきの山の常陰(とかげ)に鳴く鹿の声聞かずやも山田守らす子

                   万葉集・作者未詳

  我妹子(わぎもこ)が赤(あか)裳(も)ひづちて植ゑし田を刈りて収(をさ)めむ

  倉(くら)無(なし)の浜        万葉集・柿本人麿

*倉無の浜: 中津市の闇無(くらなし)の浜ではないかとされている。

「いとしい人の赤い裳すそが濡れるほどに、田に植えた稲を刈って、収めようにも収めきれない倉無の浜よ。」

 

  打つ田には稗(ひえ)は数多(あまた)にありといへど択(え)らえしわれそ夜を

  ひとり寝る           万葉集・柿本人麿歌集

*「たがやした田んぼには稗が沢山生えているけれど、その中から選び捨てられた稗のように捨てられてしまった私は、夜ひとり淋しく寝ている。」

 

  人の植うる田は植ゑまさず今更に国別れして吾はいかにせむ

                 万葉集・狭野弟上娘子

*「どこの田んぼでも夫婦そろって苗を植えています。あなたは私と田をばお植えにならないで、越前へ行っておしまいになり、大和で一人ぽっちの私はいったいどうしたらよいでしょう。」

 

  春まけて物悲しきにさ夜更(ふ)けて羽振(はぶ)き鳴く鴫(しぎ)誰(た)が田にか住む

                   万葉集大伴家持

*「春をまちかねてものがなしい今宵が更けてきて、羽ばたきつつ鳴くシギは誰の田に住むシギだろう。」

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