田畑のうた(4/8)
峡ふかきかたむく棚田に田(た)下駄(げた)穿き頬冠る農婦のろく稲刈る
結城哀草果
新(にい)みどり濃き谷底の一枚田このゆふかげに田植ゑゐる見ゆ
中村憲吉
見下しの棚田の面に浮苗は片寄りにけり日本の平和
宮 柊二
*浮(うき)苗(なえ): 田植え直後、あるいは小さいころに根が土中に固定せず浮動する稲の苗をさす。
やまぐにの階段状の田を拓きしとほき沈黙の大音階
*上句にみる祖先たちの圧倒的な努力を「とほき沈黙の大音階」と賛美したのだ。
百段(ももきだ)の田をつぎつぎにひたしゆく水の下降(かかう)に涙湧きくる
皺われし冬田見て過ぐ長男として血のほかに何遺されし
登熟期に入りたる稲田のおだしさをある夜はいひて嬬の寝ねしか
轟 太市
*稲の一生は、前半の苗が成長して稲になり、穂を出すまでの「成長期」と、後半の、稲穂に炭水化物を送り込んで栄養を溜め込む「登熟期」からなる。