文(房)具を詠むー筆・鉛筆・ペン(2/3)
立ちぎはの端書(はがき)一枚えんぴつの文字もかすれぬ何処(いづく)へむかふ
松村英一
*端書: 紙片にしるす覚え書き。
死にし子が中ば削りし鉛筆の脆きくれなゐの芯もかなしも
木村捨録
鉛筆の芯をとぎつつ幼きは幼きながら眼を刺す知恵を
坪野哲久
*なんとも危ない情景を詠んだものだ。
鉛筆をなめなめ次の逢う場所に丸つけて地図にわが愛を置く
浜田康敬
鉛筆を取り落としたる 机(き)のしたへ這ふところまで 月が来てゐる
鈴木 實
*机の下に落ちた鉛筆をとろうと腹這ったときに月を見たのだろう。
やはらかき鉛筆の芯削りをりかかる反復のやすらかにして
山口 純
落ちたるを拾はむとして鉛筆は人間のやうな感じがしたり
花山多佳子
ひっそりとエンピツ削る散髪をしたての少年の襟足のように
前田えみ子
遺されし図嚢のなかの色鉛筆 百日紅の花の色あり
森岡貞香
*図嚢: 地図などを入れて腰に下げる、小さい箱形の革かばん。